ヴィトン長財布 コピ ー
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null「お互いに? しかし、それは二人の間柄にもよるでしょう。僕はやっぱり会います。会って日本へ連れて帰ります。あの子を……留美を救うのは、いまは僕しかいないんですよ」  彼は、気が高ぶってきて、不覚にも涙ぐんだ。ようやく輝きを増してきた街の灯が、まわりに無数の針を散らしてみえた。  翌朝、彼は八時過ぎに目を醒《さ》まして、シャワーを浴びたりしてから、ホテルの食堂で遅い朝食を済ませてくると、窓際に椅子を寄せて、ただ目の下にひろがるパリの街を眺めて過ごした。よく晴れてはいたが、生暖かい風がぼうぼうと吹く日で、遠くの街は埃《ほこり》っぽい色に烟《けむ》っていた。  この街のどこかに、留美がいるのだ——その留美と再会する瞬間のことを思うと、とてもじっとしていられなくなって、不意に立ち上り、ひとしきり部屋のなかを歩き廻ってから、また窓際の椅子に戻ってくる。そんなことを彼は何度も繰り返した。  午後一時に、約束通り小池が迎えにきてくれた。 「昼食はもうお済みですか」 「いや……朝が遅かったもんですからね。あなたは?」 「僕も、こっちへきてからずっと朝昼兼用でしてね」 「なんでしたら、あとでこれを一緒にやりましょうよ」  清里がそういって、紙袋に入れて持ってきたものを軽く叩いてみせると、小池は訝《いぶか》しそうな顔をした。 「米と、イクラですよ、北海道産の。神永って人は、炊き立ての飯にイクラをのせて食うのが大好きでしてね」  小池は、清里の顔をちらりとみたきり、なにもいわずにタクシーへ手を上げた。  タクシーは、街なかを長いこと走ってから、薄汚れた場末の通りで停まった。 「降りましょう。この路地の奥です」  煙草の袋や吸殻や、果物の皮や犬の糞《ふん》で汚れた石畳みの歩道が、陽に晒《さら》されていた。路地へ折れると、そこを吹き抜けてくる生暖かい風が、奥の方から饐《す》えたような匂いを運んできた。路地の両側には、窓の多い五、六階ほどの古びた建物が並んでいたが、真昼なのに人影もなく、あたりはひっそりとして二人の靴音だけが高く響いた。 「いやに静かなところですね」 「このあたりに住んでいるのは、大概夜が遅い連中ですからね。いまごろ、やっと夜が明けるんですよ」  小池はそういうと、とある建物の入口を指さし、そこの石段を駈け昇っていって、ドアを開けた。すると、牧場《まきば》の羊が首でも振ったようなのどかな鈴の音がして、すぐ右手のドアから、目の落ち窪《くぼ》んだ老婆の顔が覗いた。